光電融合の勝ち筋、後工程ノウハウにあり TSMC・サムスン横展開
みずほ銀行産業調査部によると光電融合デバイスの世界市場は2035年に1.8兆円、2050年には2.9兆円に達すると予測されます。TSMCとサムスンは半導体後工程で培ったパッケージング技術をCPOに横展開し、AIサーバー時代の主導権を争っています。本稿は両社の戦略と日本への示唆を分析します。
- 光電融合デバイスの世界市場は2035年に1.8兆円、2050年に2.9兆円へ拡大する見通し
- TSMC・サムスンは後工程パッケージング技術をCPO量産に横展開している
- サムスンはCPOを2027年に開発予定、先行するTSMCを追う構図
- 特許出願上位にはTSMC、Intelと並びNTTなど日本勢も食い込む
みずほ銀行産業調査部(2025年)によると、光電融合デバイスのグローバル市場規模は2035年に1.8兆円、2050年には2.9兆円に達すると予測されています。この巨大市場の主導権を握るべく、TSMCとサムスン電子という半導体製造の二大巨頭が、電気信号と光信号を融合する「光電融合」の量産体制確立にこぞって動き出しました。両社が武器とするのは、先端半導体の後工程で長年培ってきたパッケージング技術です。
日経クロステック(2025年)によれば、大手半導体メーカーが光電融合の先端技術である「Co-Packaged Optics(CPO)」の量産体制確立に注力し始めています。CPOはシリコン基板上に光学部品を集積し、電気と光を一体パッケージ化する技術で、AIサーバーの急増を背景に「高性能化と低消費電力化」という最も要求の強いニーズに応える切り札とされています。
なぜ後工程ノウハウが勝ち筋なのか
CPOの本質は、微細化競争が続く前工程ではなく、複数チップと光学部品を一つのパッケージに統合する後工程にあります。日経クロステック(2025年)が指摘するように、シリコン基板上に光学部品を精密に実装する技術こそが、光電融合の量産可否を左右する核心です。TSMCとサムスンが有利なのは、CoWoSやパネルレベルパッケージ(PLP)といった先端後工程の資産をそのまま横展開できる点にあります。
実際、biggo(2026年)によると、TSMCはパネルレベルパッケージ技術に全力を注ぎ、原材料・部品・装置を含む完全な供給網体系の構築に着手し、量産準備を進めています。TSMCは先端パッケージ分野で「二正面作戦」を展開しており、PLPの量産供給網構築と光電融合の両輪を回しています。EE Times Japan(2026年)によれば、TSMCは2026年7月の顧客向けイベント「TSMC 2026 Japan Technology Symposium」でも、COUPEのような光電融合技術の展開を進める方針を示しました。
日本への示唆は明確です。日本には後工程で強みを持つOSAT(受託組立・検査)企業や、装置・材料メーカーが数多く存在します。光電融合の勝ち筋が後工程にあるとすれば、前工程の微細化で先端ファウンドリーに水をあけられた日本勢にとって、パッケージング領域は逆転の余地が残る戦場だといえます。
TSMCとサムスンの実力差と焦り
両社の競争は光電融合だけでなく、前工程の量産技術力とも密接に絡みます。セミコンポータル(2026年)によると、サムスンは2nm GAAプロセスの開発で壁にぶつかっており、歩留まりは50%台半ばにとどまっています。加工後には40%近くまで低下するとの推定もあり、量産に必要な水準を下回っている状況です。これに対しTSMCの2nm歩留まりは60〜70%とされ、両社の差は依然として大きいのが実情です。
この前工程での劣勢が、サムスンを後工程・光電融合への注力へと駆り立てている面があります。日経クロステック(2025年)によると、サムスン電子は光電融合の技術開発ロードマップを公開し、CPOを2027年に開発してTSMCなど大手ファウンドリーを追う構えです。同社は半導体の先端後工程で培った技術を応用し、独自のCPO技術で巻き返しを図ろうとしています。前工程で追いつけないなら、後工程と光電融合で差別化するという戦略が透けて見えます。
前工程の微細化競争が物理限界に近づくなか、システム全体の性能を決めるのは、いかにチップと光を一体化するかというパッケージング設計へと移りつつあります。
日本への示唆として重要なのは、両巨頭ですら量産の壁に苦しんでいるという事実です。光電融合はまだ技術的に確立途上であり、参入障壁が固定化される前の今こそ、日本の材料・装置メーカーがサプライチェーンに組み込まれる好機です。TSMCが日本で技術シンポジウムを開催し、供給網構築に日本企業を巻き込もうとしている動きは、その裏返しといえます。
特許と技術基盤で見える日本の立ち位置
日本勢にとって心強いデータもあります。NTT技術ジャーナル(2025年)が引用する日経クロステックの分析によると、光電融合分野の特許出願状況では、TSMC、GlobalFoundries、NTT、Intel、中国の浙江大学が上位を占めています。ファウンドリー大手や米インテルと並び、日本のNTTが上位に食い込んでいる点は、日本が光電融合の基礎技術で一定の存在感を持つことを示しています。
| 順位帯 | 主な出願主体 | 分類 |
|---|---|---|
| 上位 | TSMC | ファウンドリー(台湾) |
| 上位 | GlobalFoundries | ファウンドリー(米) |
| 上位 | NTT | 通信・研究(日本) |
| 上位 | Intel | IDM(米) |
| 上位 | 浙江大学 | 大学(中国) |
NTTは光電融合を軸とした次世代通信基盤の構想を掲げ、研究開発と実装の両面で先行しています。基礎特許を握る日本勢が、TSMCやサムスンが主導する量産サプライチェーンにどう接続していくかが、今後の商機を左右します。特許という「守り」の資産を、量産という「攻め」の収益に転換できるかが問われる局面です。
AIサーバー需要が量産化を加速させる
富士キメラ総研の市場調査(2026年)によれば、急増するAIサーバーにおいて近年最も要求の強い技術は、高性能化と低消費電力化です。生成AIの学習・推論に伴う電力消費の爆発的増大が、電気配線の限界を突きつけており、光による大容量・低損失伝送への移行は不可避となっています。CPOと光電融合は、この課題を解く現実的な解として量産化のフェーズに入りつつあります。
2035年に1.8兆円、2050年に2.9兆円という市場予測は、この構造的な需要を織り込んだものです。TSMCとサムスンが「こぞって」量産体制の確立を急ぐ背景には、AIデータセンター向けの巨大な需要が確実視されているという読みがあります。
まとめ:私はこう考えます
私は、光電融合の勝敗を分けるのは前工程の微細化競争ではなく、後工程のパッケージング統合力だと考えます。TSMCとサムスンがそろって後工程技術を横展開している事実こそが、その最良の証拠です。両社ともに2nm量産では壁に直面しており、光電融合は誰にとってもまだ確立途上の技術です。だからこそ、参入の窓は今開いているのです。
日本にとっての現実的な勝ち筋は、TSMCやサムスンと真正面から量産で競うことではなく、NTTが握る基礎特許と、装置・材料・OSATの後工程エコシステムを武器に、彼らの供給網に不可欠な存在として組み込まれることだと私は考えます。TSMCが日本で技術シンポジウムを重ね、日本企業との連携を深めている今こそ、日本は光電融合サプライチェーンにおける「代替不能なピース」を確立すべきです。市場が2050年に2.9兆円へ膨らむまでの残り時間で、その地位を固められるかどうかが、日本半導体産業の再興を左右すると私は見ています。
参考文献
- 1.みずほ銀行産業調査部「光電融合デバイスの市場予測」NTT技術ジャーナル(2025年)
- 2.日経クロステック「光電融合、TSMCやサムスンは半導体後工程技術を横展開」(2025年)
- 3.日経クロステック「サムスン電子、光電融合に本腰 『CPO』で独自技術」(2025年)
- 4.セミコンポータル「先端を巡る取り組みから:TSMC対Samsung、TeraFab」(2026年)
- 5.biggo finance「光電融合技術を公開 パネルレベルパッケージ供給網に本格点火」(2026年)
- 6.EE Times Japan「TSMCが日本に期待するもの グローバル戦略での役割」(2026年)
