確定申告不要の金融所得も算入へ、75歳以上の医療費負担判定
後期高齢者医療制度の窓口負担・保険料の判定に、確定申告をしていない金融所得も反映される制度改正が進んだ。特定口座で運用するシニア層への影響を検証する。
確定申告をしていないから、医療費の負担は増えない――そう考えていた75歳以上の高齢者ほど、今後は窓口負担が2割、3割へと引き上げられる可能性があります。2026年4月28日、後期高齢者医療制度の保険料や窓口負担割合の判定に金融所得を勘案する仕組みを盛り込んだ「健康保険法等の一部を改正する法律案」が、衆議院本会議で可決されました。三菱UFJ信託銀行のコラム(2026年)によると、この改正は75歳以上の高齢者を対象に、株式配当や譲渡益などの金融所得を負担能力の判定材料に加えるもので、確定申告をしていない世帯にも影響が及ぶ可能性がある内容です。特定口座で資産運用を続けてきたシニア層にとって、見過ごせない制度変更といえます。
確定申告しない金融所得も判定対象に、法改正の中身
三菱総合研究所(2026年)によると、自民党と日本維新の会は2025年11月21日、後期高齢者医療制度の保険料や窓口負担を決める際に、株式の配当などの金融所得を勘案することで合意しました。この合意を受けて政府は同日中に関連方針を閣議決定し、制度設計の具体化を急ぐ姿勢を示しました。合意の背景には、資産を保有する高齢者と保有しない高齢者との間で負担の公平性を確保したいという狙いがあったとされています。
続いて2026年3月13日には、掛川総合会計事務所(2026年)が伝えるように、金融所得を医療保険制度へ反映させる内容を含む「健康保険法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。そして同年4月28日、この法案は衆議院本会議で可決され、次の審議段階へと進みました。従来、後期高齢者の窓口負担割合は課税所得と年金収入等の合計所得金額のみで判定されてきましたが、今回の改正はこの判定方式に金融所得という新たな要素を加えるものであり、制度創設以来の大きな転換点になると位置づけられます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2022年10月 | 課税所得28万円以上等を基準とする窓口負担2割の判定基準が導入 |
| 2025年11月21日 | 自民党・日本維新の会が金融所得の勘案で合意、政府が方針を閣議決定 |
| 2026年3月13日 | 健康保険法等の一部を改正する法律案を閣議決定 |
| 2026年4月28日 | 同法案が衆議院本会議で可決 |
| 2026年8月時点 | 参議院での審議・政省令の具体化が今後の焦点 |
なぜ『確定申告不要』の所得が見逃されていたのか
山田会計事務所(2026年)によると、源泉徴収ありの特定口座で株式や投資信託を運用している場合、投資家は確定申告をする必要がなく、この仕組みを利用した場合の配当や譲渡益は、これまで後期高齢者医療保険料や窓口負担割合の判定に反映されてきませんでした。つまり、同じ金融資産を保有し同程度の収益を得ていても、確定申告をするかしないかによって医療費の負担額に差が生じる状況が続いていたことになります。
現行の窓口負担割合の判定基準は、厚生労働省(2022年)の資料によると、課税所得が28万円以上であり、かつ年金収入とその他の合計所得金額が単身世帯で200万円以上、複数世帯で320万円以上の場合に2割負担となる仕組みです。この基準は年金収入や給与所得、事業所得などを積み上げて算出されますが、確定申告をしていない特定口座内の金融所得はここに含まれません。結果として、金融資産を多く保有し実質的な負担能力が高い高齢者ほど、申告方法次第で判定基準を下回り、1割負担にとどまるケースが生じていたと指摘されています。
改正後はどう判定されるのか、金融機関情報の活用
VSグループ(2026年)の解説によると、改正後は確定申告の有無にかかわらず、金融機関が保有する取引情報を活用して金融所得を把握し、後期高齢者医療の負担判定に反映させる仕組みへ移行する見通しです。従来のように申告書に記載された所得だけでなく、証券会社や銀行が把握する配当・譲渡益データを行政側が捕捉できるようにすることで、判定の抜け漏れを防ぐ狙いがあるとみられます。
- 現時点で確定している事項:金融所得を判定要素に加える法案が衆議院を通過したこと
- 今後決まる事項:具体的な捕捉方法や施行時期は政省令や関係機関の準備状況次第
- 留意点:参議院での審議や制度の詳細設計が今後進められる段階にあること
note(2026年)で紹介された財務省関連資料の要約でも、金融所得の反映は窓口負担割合の見直し全体の一部として位置づけられており、原則3割負担化の議論とあわせて検討が進められている点が指摘されています。ただし、具体的にどの金融機関からどの範囲のデータを収集し、どのタイミングで保険料や負担割合に反映させるかといった実務的な詳細は、2026年8月時点ではまだ確定していません。今後の政省令の整備や自治体・後期高齢者医療広域連合の準備状況によって、運用の具体像が固まっていく段階にあります。
資産運用を行うシニア層・家族への影響
この改正が実際に運用されると、特定口座で配当や譲渡益を得ているものの確定申告をしていないシニア層は、これまで1割負担で済んでいたケースでも2割や3割へ引き上げられる可能性が出てきます。特に、公的年金収入自体はそれほど多くないものの、長年の資産形成によって金融資産からの収益が大きい世帯ほど、判定基準への影響を受けやすくなると考えられます。年金収入だけを見れば負担能力が低いと判断されていた世帯が、金融所得の算入によって一気に負担区分が変わる可能性がある点は注意が必要です。
家族が高齢の親の資産運用をサポートしている場合、口座の申告方法だけでなく、金融所得の水準そのものが今後の医療費負担に直結する可能性を踏まえたアドバイスが求められるようになります。具体的には、特定口座内でどの程度の配当・譲渡益が発生しているかを定期的に把握し、資産の取り崩し方や口座の分散状況を確認しておくことが、今後の負担増への備えとして重要になってくると考えられます。制度の詳細が固まる前の段階から、家族間で資産状況を共有しておく意義は大きいといえるでしょう。
今後の見通しと備えておきたいこと
改正法案は2026年4月28日に衆議院本会議を通過した段階であり、2026年8月18日時点では、参議院での審議や関連する政省令の整備が今後進められていく見通しです。三菱UFJ信託銀行(2026年)のコラムでも触れられているように、実際の施行時期や金融機関からの情報収集の具体的な方法については、今後の制度設計の中で順次明らかになっていくと見込まれます。
対象となる可能性のある世帯は、まず自身や家族の特定口座における金融所得の水準を把握しておくことが第一歩になります。そのうえで、確定申告の有無にかかわらず金融所得が判定に反映される前提で、資産構成や運用方針を見直す動きが今後広がっていくと考えられます。制度の詳細が固まるまでには一定の時間がかかる見通しですが、負担区分が変わり得るという前提に立って早めに情報収集を進めておくことが望ましいといえます。
私は、今回の改正が資産保有と負担能力の関係を見直す契機になる点自体は理解できると考えています。一方で、確定申告をしてこなかった多くのシニア層にとって、自分の金融所得が把握され負担に反映されるという変化は心理的な影響も小さくないはずです。制度の詳細設計にあたっては、対象者への十分な周知と、急激な負担増を避ける経過措置の検討が欠かせないと私は考えます。
参考文献
- 1.三菱UFJ信託銀行「コラムVol.205 医療費・保険料が増える?カギを握る金融所得」(2026年)
- 2.三菱総合研究所「後期高齢者医療の負担判定に『金融所得』を含める意義とは?」(2026年)
- 3.掛川総合会計事務所「投資の利益が医療保険料に反映?健康保険法等の改正で変わること」(2026年)
- 4.山田会計事務所「【後期高齢者医療保険】75歳以上の保険料に『金融所得』を反映」(2026年)
- 5.VSグループ「後期高齢者医療に金融所得が反映へ|保険料・窓口負担への影響」(2026年)
- 6.厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正)」(2022年)

