非中核事業売却に課税繰延、政府がガバナンス改革を検討
政府は非中核事業の売却益に課される約30%の法人税を、成長分野への再投資を条件に無期限繰延する新税制の導入を検討していることが分かった。日本型経営の構造転換を促す一手となるか。
約30%。これは、企業が非中核事業を売却した際に得る売却益に現在課されている法人税の実効税率です。
アラブニュース・ジャパン(2026年)は、この計画が政府のコーポレート・ガバナンス改革の一環として浮上したものであり、複数の情報筋の話として、非中核事業の売却益にかかる約30%の法人税を数年以内の成長投資と引き換えに繰り延べる方向で調整が進んでいると伝えています。インベスティング・ドットコム(2026年)およびBiggoNews(2026年)も同様に、無期限繰延という点を含めた制度の骨格を報じており、複数の報道機関の取材で内容がおおむね一致しています。
制度の仕組みと狙い
報じられている制度案の骨子は明快です。企業が保有する非中核事業を売却して得た利益には、通常であれば約30%の法人税が課されます。新制度では、この税負担を、売却益を数年以内に成長分野の買収や投資に充てることを条件に、無期限に先送りできるようにします。ロイター(2026年8月25日、topics.smt.docomo.ne.jp転載)は、これが「事業再編を促す」ための措置であると位置づけており、単なる減税ではなく、企業が事業ポートフォリオを積極的に組み替えることへのインセンティブ設計である点が特徴です。
日本型経営の構造問題と海外の先例
日本企業が非中核事業を抱え込みやすい背景には、長期的な取引関係や株式の政策保有を軸とした企業文化があります。日本総合研究所主任研究員の上田亮子氏とRIETIの小林慶一郎氏による2017年の分析(過去のデータ)によれば、東証1部上場企業の政策保有株主比率は2007年の36.3%から2016年には34.1%へと低下した一方、機関投資家比率は同期間に27.0%から31.9%へ上昇しました。政策保有株主の存在は株主総会での友好的な賛成票を確保しやすくする半面、資本の効率的活用や事業再編への圧力を弱める要因にもなってきました。
同分析は、ドイツが2000年代のシュレーダー政権下で株式売却時のキャピタルゲインを非課税とする優遇税制を導入した結果、金融機関を中心とした構造的な株式持ち合いが縮小し、機関投資家の保有比率が上昇した事例を紹介しています。今回、政府内で検討されている売却益課税の繰延案も、税制上のインセンティブによって企業の構造転換を後押しするという発想において、このドイツの先例と軌を一にするものと位置づけられます。
既存のM&A税制優遇との関係
日本にはすでに複数のM&A関連の税制優遇が存在しています。TRANBI(2026年度版)によると、経営資源集約化税制では株式取得額の最大70%を損金算入でき、事業承継税制ではM&Aによる会社売却時の贈与税・相続税が全額猶予されます。また、CBH(令和8年度税制改正に関する解説)によれば、2027年1月からはミニマムタックスの見直しが予定されており、オーナー経営者がM&Aで会社を売却する際の課税関係にも影響が及ぶ見通しです。日本M&Aセンター(2026年)は、2025年12月19日公表の与党2026年度税制改正大綱により、2027年分の所得税について特別控除額が1.65億円に引き下げられ、税率が30%に引き上げられることを紹介しています。
| 制度名 | 内容の概要 | 時期 |
|---|---|---|
| 非中核事業売却益の課税繰延(検討中) | 約30%の法人税を、数年以内に成長分野へ再投資することを条件に無期限繰延 | 2026年検討中 |
| 経営資源集約化税制 | 株式取得額の最大70%を損金算入可能 | 2026年度版 |
| 事業承継税制 | M&Aによる会社売却時の贈与税・相続税を全額猶予 | 2026年度版 |
| ミニマムタックス改正 | オーナー経営者のM&A売却益にかかる課税関係を見直し | 2027年1月施行予定 |
- 非中核事業売却益に課される約30%の法人税を、成長分野への再投資を条件に無期限繰延する新税制を政府が検討していることがロイター等の報道(2026年8月25日)で判明しました。
- 背景には、政策保有株式に代表される日本型経営の構造が資本の効率的活用や事業再編を妨げてきたという問題意識があります。
- 日本にはすでに経営資源集約化税制や事業承継税制などのM&A税制優遇があり、2027年1月にはミニマムタックスの見直しも予定されています。
まとめ
私は、今回報じられた課税繰延案が、日本企業に根強く残る「抱え込み経営」からの転換を後押しする現実的な一手になり得ると考えます。ドイツが2000年代にキャピタルゲイン非課税で株式持ち合いの解消を促した先例が示す通り、税制インセンティブは行動変容の強力な手段です。ただし、RIETIの過去の分析が示すように、政策保有株主比率は10年かけてわずか2ポイント程度しか低下しておらず、税制だけで日本型経営の構造が急速に転換するとは限りません。再投資期限の設定方法や、繰延税額が最終的にどう回収されるかといった制度の細部が、実効性を左右する分水嶺になると私はみています。
参考文献
- 1.ロイター「政府、非中核事業の売却益で課税繰り延べ検討 事業再編を促す」docomo topics転載(2026年8月25日)
- 2.アラブニュース・ジャパン「情報筋によると、日本政府はコーポレート・ガバナンス改革の一環として…」(2026年)
- 3.Investing.com「日本、非中核事業売却に税優遇措置を検討―法人再編を促進へ」(2026年)
- 4.CBH「令和8年度税制改正|ミニマムタックス改正と2026年中にM&A」(2026年)
- 5.日本M&Aセンター「【2027年からどう変わる?】ミニマムタックスがM&Aに与える影響を税理士が解説」(2026年)
- 6.TRANBI「2026年度版 M&Aの税制優遇・減税措置|中小企業が使える制度」(2026年)
- 7.上田亮子・小林慶一郎「企業統治と安定株主 持ち合い解消へ税優遇も」RIETI、日本経済新聞「経済教室」(2017年8月30日掲載)

