米テック起業家カレン氏、AIを「知能インフラ」として管理を提言
AI関連企業を複数創業した米テック起業家トーマス・エイダン・カレン氏へのインタビューが2026年8月20日に公開され、AIをモデル性能だけでなく本人確認や権限管理まで含む「知能インフラ」として捉える必要性が示されました。生成AIによるサイバー攻撃の巧妙化を受け、企業に求められる備えが改めて注目されています。
米国とドイツを拠点にAI関連など7社のテック企業を創業し、独通信大手ドイツテレコムのCTO(最高技術責任者)などを務めたトーマス・エイダン・カレン氏へのインタビュー記事が、2026年8月20日に公開されました。同氏は、AIを単なるモデルの性能の問題としてではなく、本人確認や権限管理、監査、説明責任までを含めた「知能インフラ」として捉えるべきだと説いています。AIの導入が急速に進む一方で、投資に見合う成果を得られていない企業が少なくないことや、顧客データの流出、サイバー攻撃への懸念が高まっていることが背景にあります。
生成AIの進化は、サイバー攻撃の性質そのものを変えつつあります。かつては高度なプログラミングスキルを持つ専門的なハッカーに限られていた攻撃手法が、生成AIの普及により、専門知識を持たない者でも悪意のあるコードを容易に作成できるようになったと指摘されています。従来のファイアウォールやアンチウイルスソフトは過去の攻撃パターンをデータベース化して遮断する仕組みが主流でしたが、生成AIによって次々と新しいパターンのマルウェアが生み出される現状では、こうした過去のデータに依存した防御手法だけでは未知の脅威に対応しきれないという課題が浮かんでいます。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」からも、ランサムウェアによる被害や標的型攻撃による機密情報の窃取が依然として深刻な状況にあることがうかがえます。クラウドサービスの普及やテレワークの定着により、企業が守るべきネットワークの境界線が曖昧になったことで、攻撃者が侵入できる経路も拡大しているとみられます。加えて、日々大量に発生するセキュリティアラートを人手で一つひとつ確認し判断することは、セキュリティ人材が不足する企業にとって重い負担となっており、重要なアラートの見落としにつながるリスクも指摘されています。
こうした状況を受け、企業が備えるべき対策として「診断・監視・先回り対応」という3本柱の考え方が示されています。まず土台となるのが、脆弱性診断やペネトレーションテストです。生成AIを用いた高度な攻撃であっても、最終的にはシステムの既知の脆弱性を標的とすることが多いため、攻撃者に狙われる前に自社システムを点検し弱点を特定・修正するプロセスの確立が欠かせないとされています。経済産業省とIPAが策定したサイバーセキュリティ経営ガイドラインでも、経営者がリーダーシップを取ってセキュリティ対策を推進する重要性が説かれています。
防御側の実践策としては、AIを活用してアラート対応そのものを自動化する動きも進んでいます。セキュリティオペレーションセンター(SOC)のアナリストを支援する次世代プラットフォーム「StrikeReady」は、過去のインシデントデータや最新の脅威インテリジェンスをもとにAIが状況を自動分析し、最適な対応手順を提示できる仕組みを備えています。これにより、担当者の経験やスキルに依存せず、迅速かつ正確な初動対応が可能になるとされ、人手不足に悩むSOC運用の課題解消につながる選択肢として注目されています。
AIの高性能化が進む中で、経営層が認識しているリスクと実際の脅威との間に乖離が生じやすいことも課題として挙げられています。攻撃手法がブラックボックス化しやすく、被害が表面化するまでリスクが「見えにくい」ことが、投資判断の優先度を上げにくくしている一因とみられます。カレン氏が示した「知能インフラ」という視点は、AIの性能向上だけでなく、権限管理や説明責任といった運用面の枠組み整備を経営課題として位置づける必要性を改めて浮かび上がらせるものとなっています。
今後は、生成AIを用いた攻撃の巧妙化がさらに進むとみられる中、脆弱性診断やペネトレーションテストといった基礎的な対策と、AIを活用したリアルタイムの脅威監視や先回り対応を組み合わせた多層的な備えが、企業にとって一段と重要になっていくと考えられます。経営層がサイバーリスクを事業継続に直結する経営課題として認識し、限られた予算と人材の中で優先順位をつけた投資判断を行っていくことが求められそうです。
