円安止まらず、年末ドル円165円前後の見方 専門家が構造要因分析
日銀の追加利上げ観測が高まる中でも円安基調は続くとの見方が専門家の間で示されました。実質金利のマイナスや対外直接投資の拡大が構造的な要因として指摘されています。
2026年8月25日の東京市場では、日経平均株価が65,598.68円(前日比+70.59円、+0.11%)、TOPIXが105.18ptと前日比横ばいで推移し、外国為替市場ではドル円が159.34円で取引されました。円相場をめぐっては、日銀の追加利上げ観測が急速に高まる一方で円安基調が続いており、市場関係者の間では2026年末のドル円水準について改めて注目が集まっています。
高千穂大学の内田稔氏は、円安の根本要因を実質短期金利のマイナスにあると分析しています。日銀の政策金利は現行1%で、年内に1.25%まで引き上げられたとしても、7月の消費者物価指数(CPI)が前年比1.8%まで再加速していることを踏まえると、実質金利のマイナスは解消されないとの見立てです。プラス転換が視野に入るのは、インフレが落ち着き政策金利が1.5%程度まで上がった来年前半以降になるとみられ、内田氏は年末のドル円について165円前後を想定し、ドル指数の動向次第では170円接近もあり得るとの見方を示しています。
実質長期金利についてはすでにプラス圏にあるものの、円安に歯止めがかかっていない点も指摘されています。長期金利の上昇が「期待潜在成長率」の高まりによるものであれば円高要因となりますが、現状は「期待インフレ率」と「財政リスクプレミアム」の上昇が主因とみられ、通貨にはむしろネガティブに働いているとの分析です。背景には、日銀による国債買い入れ減額に伴う需給悪化や、積極財政に伴う国債増発観測があるとされています。
一方、日本銀行で11年間エコノミストを務めた経験を持つブルームバーグ・エコノミクスの木村太郎氏は、日銀の次回利上げについて10月を本命視しています。OIS市場では9月利上げの確率が一時8割近くまで上昇しましたが、7月の日銀会合直前には3割程度だったことを踏まえると、市場の見方は短期間で大きく変化したことになります。木村氏はそのきっかけとして7月末の日米協調による円買い介入を挙げ、政府の対応を受けて「日銀も歩調を合わせる」との観測が市場に広がったと説明しています。ただし、日銀会合の直前に開催されるFOMCの動向次第では日米金利差の縮小を通じて急速な円高が進むリスクもあることから、木村氏は9月ではなく10月利上げの可能性がより高いとみています。
10月に利上げが実施された場合、年内の追加利上げの可能性は限定的で、次の利上げは翌年1月ごろとなり、政策金利は1.5%程度まで上昇する見通しとされています。その後、政府が消費税減税などを通じて家計支援を進める一方で日銀が引き締めを続ければ、金融政策と財政政策の方向性にずれが生じるため、利上げが一時停止される可能性も指摘されています。さらに政策金利が1.75%程度まで引き上げられる局面では、日本における「中立金利」の水準が市場の大きな論点になるとみられています。
木村氏が重視するのは、25bpや50bp程度の利上げだけでは中期的な円高トレンドへの転換は考えにくいという点です。その根拠として、日本企業による対外直接投資の拡大を挙げています。国内の人手不足が深刻化する中、海外で得た利益を国内に還流させるより、成長期待の高い海外へ再投資する企業が増えており、対米直接投資も製造業から小売・金融業へと業種の広がりを見せています。こうした資金フローが構造的な円売り圧力になっているとの分析です。
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」については、財政悪化への懸念が円安につながっているとの見方に対し、木村氏は説明の解像度が低いと指摘しています。同政権下で円安が進んだ主因は「日銀が利上げしにくい」というイメージの定着にあるとみられ、実際には同政権下でも利上げは実施されています。財政支出が潜在成長率の向上につながれば、中長期的にはむしろ日本経済の強化に働く可能性があるとの見方も示されています。
今後の焦点は、9月または10月に予定される日銀の金融政策決定会合と、それに先立つFOMCの結果です。米国の景気・雇用指標が弱含めば米利上げ観測の後退を通じて円高が進む可能性がある一方、対外直接投資に代表される構造的な円売り圧力が続く限り、日銀の利上げのみで円高トレンドへ転換するのは容易ではないとの見方が専門家の間で共有されています。年末に向けてドル円が165円前後で推移するのか、あるいはそれ以上の水準に進むのか、日米双方の金融政策と財政動向が引き続き注視される見通しです。
