物理予測AI発表、処理量は既存モデルの500万倍
カリフォルニア工科大学教授らが設立したアクセラレーテッド・アンダースタンディングが、言語ではなく物理現象の予測に特化した新型AIモデルを発表しました。1回のプロンプトで5兆個のデータを処理したといいます。
米新興AI企業アクセラレーテッド・アンダースタンディングは2026年8月25日、単一のコンピューターでは処理しきれないほど膨大な情報を取り込み、生成できるAIモデルを発表しました。同社はカリフォルニア工科大学教授で「ニューラルオペレーター」の開発を指揮したアニマ・アナンドクマー氏と、夫でAIエンジニアのベネディクト・イェニク氏が創設した企業です。ロイター通信が報じました。
報道によると、このAIモデルはテストにおいて1回のプロンプトで5兆個のデータを処理したとされます。これは、アンソロピックの「クロード」やグーグルの「ジェミニ」が通常処理できる規模の約500万倍に相当するとみられ、報道ではトルストイの「戦争と平和」を一度に500万回読むような規模と表現されています。
このシステムの特徴は、言語を理解するために構築されたものではなく、物理学のために構築されている点にあります。オープンAIの「チャットGPT」のような一般的な生成AIは世界のテキストデータを使って作成され、対話時に文章の適切な次の単語を予測する仕組みですが、この代替AIは空間と時間における物理現象の予測を学習させたものだといいます。グーグルが発明したトランスフォーマー・アーキテクチャは採用せず、アナンドクマー氏が数年前に開発に貢献した「ニューラルオペレーター」と呼ばれる技術に基づいて物理データを処理する設計になっています。
アナンドクマー氏はインタビューで、言語中心の知能の捉え方は人間を中心に据えたものであり、物理学を中心に据えることは自然中心の捉え方だという考えを示しました。同様の発想は他の企業にも広がっており、AIの権威とされるヤン・ルカン氏やフェイフェイ・リー氏が率いるスタートアップなども、テキストで訓練されたAIより空間的な現実の理解に優れた、いわゆる「世界モデル」の開発を進めています。
アクセラレーテッド・アンダースタンディングは、このAIが半導体設計、ロボット工学、極端な気象の予測、エネルギー企業向けの地質学的データ解析など幅広い分野に応用できると説明しています。用途ごとに脆弱で特注の数学モデルを用意する代わりに、一つのAIがビジネス界におけるあらゆる物理学のクエリを処理できるとしており、まずは消費者向けではなく企業との取引に注力する方針だといいます。
同社の技術には、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏も関心を寄せていたことが明らかになりました。ベゾス氏は起業家ビク・バジャジ氏とともに新興AI「プロジェクト・プロメテウス」を立ち上げており、バジャジ氏は2024年後半にアナンドクマー、イェニク両氏と会食し、協力について協議しました。その際、アナンドクマー氏には取締役会メンバー・会社の公的な顔としての役割、イェニク氏には取締役会オブザーバーの地位が提示され、両氏合わせて株式35%と当初100万ドル、3カ月後に200万ドルの報酬案が示されたとされますが、両氏は独自の道を選んだといいます。
資金調達についてアナンドクマー氏はコメントを控えたものの、AIの開発・運用に必要なハードウェアクラスターを提供するコンピューティングプロバイダーとすでに提携していると述べ、提携先の名前は明らかにしませんでした。
テキスト中心の生成AIが急速に普及する一方で、物理現象そのものの理解を目指す「世界モデル」型のアプローチは、半導体開発や気象予測、エネルギー分野など幅広い産業への波及が期待されています。同社が企業向け展開をどう進め、他の世界モデル系スタートアップとの競争がどう推移するか、今後の動向が注目されます。

