日銀9月利上げ観測強まるも円安止まらず、専門家が3つの構造要因指摘
OIS市場で日銀の9月利上げ確率が約8割まで上昇する一方、ドル円は159円台で推移。専門家は利上げだけでは円安に歯止めがかからない構造的な要因があると分析しています。
日銀の追加利上げ観測が急速に強まっています。OIS市場では9月の金融政策決定会合での利上げ確率が一時8割近くまで上昇しました。7月の日銀会合直前には3割程度だったことを踏まえると、市場の見方は短期間で大きく変化したことになります。一方でドル円相場は159.02円で推移しており、市場では「日銀が利上げしても円安は止まらないのではないか」との懸念も根強く残っています。
21日の東京株式市場では、日経平均株価が前日比890.37円高(+1.36%)の66,216.79円で取引されました。TOPIXは105.18ポイントと前日から横ばいの水準です。市場では日銀の金融政策や為替動向を巡る思惑が引き続き株式市場にも影響を与えている状況です。
ブルームバーグ・エコノミクスのシニアエコノミストで、日本銀行でも11年間エコノミストを務めた木村太郎氏は、市場が織り込むほど9月利上げの可能性は高くないとみています。9月の日銀会合の直前にはFOMCが開催されるため、米国の景気や雇用の動向次第では日米金利差の変化がドル円相場に大きな影響を与える可能性があります。木村氏は、こうしたリスクを踏まえると10月利上げの可能性の方が高いとの見方を示しました。木村氏はまた、利上げ後のコミュニケーション次第で円高・円安どちらの方向にも振れかねない「ナローパス」に日銀が入っていると分析しています。
高千穂大学教授で元東京銀行(現三菱UFJ銀行)出身の内田稔氏は、円安の根本要因として日本の実質短期金利がマイナス圏にあることを指摘しています。政策金利が現在の1%から年内に1.25%まで引き上げられても、直近のCPIが前年比1.7%まで再加速していることを踏まえると、実質金利のマイナス解消には至らない見通しだといいます。実質金利がプラス転換に近づくのは、インフレが落ち着き、政策金利が1.5%程度まで引き上げられた後になるとみられています。
内田氏はさらに、実質長期金利がすでにプラス圏に転じているにもかかわらず円安に歯止めがかからない点にも注目しています。長期金利上昇の中身が期待インフレ率やリスクプレミアムの上昇によるものであれば、それは通貨にとってネガティブに働くためです。このプレミアム上昇の背景には、日銀の国債買い入れ減額による需給悪化や、積極財政による国債増発観測があると分析されています。
木村氏は、日本企業による対外直接投資の拡大も円安圧力の構造的な要因として挙げています。国内の人手不足を背景に、日本企業は海外で得た利益を国内に還流するよりも、成長余地の大きい海外へ再投資する傾向を強めており、こうした資金フローが円売り要因になっているとの見方です。木村氏は、日本が輸出で稼ぐ国から海外投資で稼ぐ「直接投資立国」へ構造的に変化してきたと指摘しています。
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を巡っては、財政悪化への懸念が円安につながっているとの見方もありますが、木村氏は「財政懸念だから円安という説明は、やや解像度が低い」との見解を示しています。むしろ、高市政権下では日銀が利上げしにくいとのイメージが市場に定着したことが、より大きな円安要因になったとみています。
今後の焦点は、9月または10月に予定される日銀の金融政策決定会合と、その直前に開催されるFOMCの動向です。内田氏は、日銀が政策金利1.25%を経て1.5%、さらには1.75%程度まで引き上げる局面に入れば、日本の中立金利がどこにあるのかが市場の大きな論点になる可能性があるとみています。円安基調が続くかどうかは、日米の金融政策の綱引きや、日本企業の対外投資動向、財政政策との整合性など複数の要因が絡み合いながら決まっていくとみられます。
