「数学界のノーベル賞」と呼ばれるフィールズ賞を受賞した森重文・京都大特別教授らを含む世界の数学者25人が、今月11日、人工知能(AI)を使って企業が数学の難問を解く行為を非難する緊急声明を発表しました。声明では、数学の理解や新しい発想、人材育成という研究本来の目的をAIによる解答生成が損なう恐れがあるとして、「科学や数学界に有害だ」と訴えています。
声明の背景には、米オープンAIが今月8日、開発中のAIが数学の未解決問題として知られる「ミレニアム問題」の一つを解いたと発表したことがあるとみられます。この発表を受け、森氏を含む著名な数学者らが連名で緊急声明をまとめる動きにつながったとされています。
声明では、数学を「人類の縮図」と表現し、AI企業が目指す方向性とは「著しく隔たりがある」と指摘しました。数学者らは、問題を解くこと自体が目的ではなく、概念的な理解と洞察を得るための手段にすぎないという立場を強調しています。
さらに懸念として挙げられたのが、AIによって「成果」が大量生産された場合、人間による検証作業が追いつかなくなる可能性です。また、時間をかけてじっくり考える研究環境そのものが失われることへの危機感も示されました。加えて、AIは既存の膨大な研究成果を基に解答を導き出す仕組みであるため、「業績の帰属や盗用に関する問題を生む」とも訴えています。
AIによる数学研究の急速な進展は、成果の優先権や評価のあり方にも影響を与え始めているとの見方があります。従来は人間の研究者が時間をかけて積み上げてきた証明や発見のプロセスが、AIによって短期間で再現される事態が現実味を帯びており、学術界における評価の枠組みそのものが問い直される可能性が指摘されています。
今回の声明はAIによる解答そのものを一律に否定するものではなく、その活用のあり方や検証体制の整備を求める意図があるとみられます。今後は、AI企業側の対応や、数学界における研究倫理・評価基準の見直しに向けた議論が本格化していくとみられます。
